君ニ幸アレ

例えば、アイツの好きなものをプレゼントしてやるだとか。例えば、アイツが行きたい場所に二人で行ってやるとか。オレだって色々と考えてはみたのだけれど。何をしたってアイツは喜ぶだろうなとか、照れたように「有難う」なんて小さく呟くんだろうなとか、そういうことばかり浮かんでしまって、何も手につかなくなって、思わず緩む頬を必死に直しながらアイツの家まで向かった。

「お招きして戴いて有難う御座います」

大人用のすました笑みで玄関をくぐり、アイツの家族に媚びを売りつつ、(こういった仕草にアイツときたらキモいとか云いやがる)毎年恒例の一家団欒のパーティにお邪魔する。そこにはホールケーキが一つに、アイツの好きなほうれん草のおひたしが並んでいて、そのチグハグさがアイツの家らしくてオレは不覚にも笑いそうになった。ケーキはお姉さんの手作りとかでちょっといびつだったが、味はまぁまぁだった。手作りってのは味がどうこうとかじゃなくて気持ちだから、としどろもどろになるお姉さんにそうですねと頷いて(けれど「味も最高ですよ」とお世辞を言うのは忘れなかったが)、アイツの顔をチラリと覗いてみる。一瞬だから家族でも見逃したかもしれない。その、ちょっと不機嫌な顔は、オレが予想していたこと多分一致しているのだろう。嫉妬心。男心としてはそう悪くない心地だ。

部活の友達とのパーティ、という名目で連れ添って家を出る。車を呼ぼうかと思ったがやめた。夕暮れ時でそう暑くもなかったし、二人きりの時間は長いにこしたことはないだろう。大した会話もなく、とぼとぼと歩く。沈黙も別に嫌いじゃない。コイツは常に煩いから、沈黙なんて珍しいことだなぁと頭の片隅で思ったくらいだ。とぼとぼ、とぼとぼ。スピードエースと自称している割には歩くのがトロいんじゃねーか。ふいに、立ち止まって、コイツの、神尾アキラの頭をグシャグシャとかき混ぜる。

「何すんだよっ」

猫が敵に対して威嚇するようにオレのことをぎゅっと睨みつける。その眼に、いつも惹かれてしまう。でも今日はちょっと違った印象だ。まぁ、オレとしては笑みを浮かべずにはいられないが。その原因も、対策も簡単に予測でき得ることだからな。

「お前、何か勘違いしてねーか?」
「っ・・・・!何がだよ!」

ケーキを誉めていた時にコイツの姉さんがよろけたのをオレが抱きかかえたのがよっぽどショックだったらしい神尾は、さっきからずっと黙りまくって不機嫌オーラを出しまくってる。まるで子供みたいに。それがコイツの可愛いところではあるのだが。

「オレが好きなのはお前だけだぜ?」

不遜な笑みを浮かべて、神尾の髪にキスを落とす。オレとはまた違ったサラサラな黒髪は、コイツの瞳の次に好きなパーツだ。されるがまま抵抗しない神尾を手を引いて、近くの公園まで連れて行く。ベンチに座って一休みしながら右手に嵌めていた指輪を一つ外した。

「やるよ」
「は?」
「誕生日プレゼントだ。とっとけ」

そういって、神尾の手のひらに落ちた指輪はキレイな緑色をした、小さな石が埋め込まれていた。そういや去年は花だったな、と以前贈ったものを思い出した。花に宝石、女が喜びそうなもんばっか贈ってるなと自嘲する。つうか、男が喜びそうなもんって何だ。

「ペリドットっていうんだぜ、それ」
「この緑のやつか?っていうか、これ高いんじゃねぇ?」
「バーカ。気にしてんじゃねーよ。あーそれと、」

うわーすげーキレーなどと思いのほか喜んでいる神尾に満足しながら、ポケットから真新しいチェーンを取り出す。そして、今度は何だ?と身を乗り出している神尾の首の後ろに腕を通す。まるで抱きしめているみたいに。そっと金具を引っ掛けて、何をされているのかいまいち分かっていない神尾の顔を見て云う。

「それに通して持ってれば、いくらお前でもなくさねぇだろ?」
「オレがすぐなくすみたいじゃねぇかよっ」
「そうは云ってねぇよ」
「云ってる!」
「云ってねぇ!!」

ついケンカ腰になるものの、そういや今日はコイツの誕生日だったと思い出す。今日くらいは甘やかしてやってもいいだろう。何せ、一年に一度きりなのだから。

「I congratulate you on the birthday of you.」
「えっ?」
「”誕生日おめでとうバカミオ”・・・だ」
「・・・・ありがと」

小さな小さな声で呟かれた言葉が、オレ以外聞き取らなければいいのにと子供じみた独占欲が過ぎって、オレもまだガキだなと思う反面、それに満更でもない自分が居る。指輪を嵌めながら、キレーだなーと連呼する神尾を急かして、家に急ぐ。満面の笑顔。どうやら機嫌はすっかりよくなったみたいだ。さて、家で飾り付けをしている(させている)忍足たちも、そろそろ待ちくたびれた頃だろう。不動峰の面々も集まっているだろうし、リズムをあげて帰るとするか。いけねぇ、どうもコイツの口癖がうつっちまう。まぁ、そんなのもありかもしれねぇな。今日くらいはお前に主役を譲ってやるよ。今日という日が、最高の思い出になるように。おめでとうな、神尾。

END

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跡部一人称って難しいな。指輪の後日談も書きたい。
(例によって見直してないので後で修正する可能性大)

2004/8/26