はっきり言って初めは何も思わなかった。
ムカツクとも面白いとも、何も、何も思わなかった。
ただ、覚えているのは、あの日の君の瞳だけ。

 

<<溺れる子猫は 誰の手、掴む?>>

 

 

「・・・・跡部。」

そう自分の名を呼ぶ声が愛しくて、
もっと呼んで欲しくなって、
わざと聞こえないフリ続行。

「跡部、」

その声が永遠に絶えなければ良いのにと、
何度願っただろうか。

「跡部、」

いつまでもその声を求めてる。
テニスよりも貪欲に。
何よりも必死に。





「・・・・・・跡部、おい跡部ってば!!!」

尚続くその行為が、
何度呼んでも駄目だとようやく判った神尾が
俺の読んでいた本を取り上げた。


「人の話くらい聞けって!!
ったく、何読んでんだよ?げ、全部英語じゃん。」 

             
神尾が俺の読んでいた本を見て嫌な顔をした。
コイツは英語が苦手だから。
いや、数学も国語も苦手教科だか、
英語は一番出来ないと嘆いていたな。
だから、こういう本を見ると決まって嫌な顔をする。


「何読もうと俺の勝手だろうが。」


そういって、必死にタイトル部分を訳そうとしている
神尾から本を奪う。
あっ、とまだ訳せていない為か、
それを追いかける様は、何だか猫のようで。
俺は不覚にも可愛いと思ってしまったのだ。



(宍戸じゃね−けど、激ダサだな。)


この俺が溺れるなんて。

思わず漏れる溜め息、そして堪え切れない冷笑。


「何笑ってんだ??」

見上げてくるその瞳に吸い込まれてしまいそうで。

「跡部?」

もしかして、邪魔されて怒ってんのか?と
考えこむ神尾の頭らへんにうなだれるネコ耳が見えた。


(・・・・・・・・・・・・・・・末期だな、これは。)


溺れるどころの騒ぎじゃない。
非現実なものが重なって見える。
これはもう間違いなく君の所為で。


「・・・跡部?」
「責任は取れよ、神尾。」
「はぁ?」


神尾は俺の云った言葉の意味が判らないと
思いっきり変な顔をした。


そしてしばらくして、
「・・・あ、もしかして何処読んでたか判らなくなったのか?」
「・・・・・・・・。」

悪ィな、と謝る神尾を見て、こっそりため息。
云いたいことは沢山あるけれど、
とりあえず、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ。」

「あぁ?人が謝ってやってんのに、
バカとはなんだ、バカとは!!」

そういえば人間は、
本当なことを云われるともの凄く怒るものだった。

「本当のこと云ったまでじゃね−か。」
「んだと〜!!」
「罰として、」


目の前でバカじゃねぇ!と力説する
神尾の腕を掴んで引き寄せる。

ちゅっ。


「ッ、何すんだ!!」
「ま、今回はこれで勘弁してやる。次はないからな。」
「〜〜〜ッッ」


その真っ赤になって照れる神尾が可愛くて、
俺はもう少しだけ、 溺れていたいと思ったんだ。




初めて顔を見合わせた時は別に何とも思わなかった。
ただ、覚えているのは、あの日の君の瞳だけ。       
まっすぐに俺を見据える、 その瞳に溺れてる。



2002/10/19