どうしていいかわからない。効果的な対処法も知らない。だけど、どうしても後悔だけはしたくなかったんだ。


ぬくもりまたひとつ


海堂先輩を好きになって半年が過ぎた。真面目で堅物の先輩を落とすのは、結構大変だった。恋愛に興味がないような感じだったし、テニス一筋みたいな人だから。思えば、初キッスは不意打ちだった気がする。顔を真っ赤にして、ちょっと涙目にして睨まれて、みぞおちに一発食らわせられた。本当、俺に容赦ないよね。そんな顔されたらまたしたくなるんだけど。

一目見て恋に落ちた。どうにかして自分のものにしたくてたまらなくなった。乱暴にでも奪ってやりたくなる。俺にとって海堂先輩はそんな人だった。

「手、つないでいい?」
「・・・好きにしろ」

あ、また弟扱いした。先輩には弟がいるから、ベタベタ甘えても大して嫌がらない。ジュースの回し飲みだって平気だし、たまに俺がしたいことを察知してやってくれたりする。有り難い時もあるけど、俺は別に迷子になるから繋いでおきたい訳じゃない。海堂先輩に触れていたいから、つないでおきたいのに。ぎゅっ、と手を強く握る。ねぇ、先輩。俺はアンタの弟なんかじゃないよ?

「先輩、キスしてもいいッスか?」
「駄目に決まってんだろーが!」

学校の帰り道。周りには誰もいないし、十字路の曲がり角だから死角になってきっと誰も気付かないはず。本当は先輩は俺のだって皆に言いふらしたいくらいだけど、先輩が嫌がるだろうから今は隠しておく。先輩が云い終わらないうちに頬に軽くキスをした。背伸びをちょっとだけして。来年は先輩を超えて見せるよ。もう弟みたいになんか扱わせてあげない。きっと先輩が惚れ直すくらいイイ男になる。

「先輩、愛してるよ」
「・・・ふしゅー」

にっと笑って、繋いだ手を握り締める。この先、どんなことがあったとしてもこの手を離したくなんかない。そのためだったら何でもするよ。例え、先輩が泣いたとしても。赤く染まった葉が誰かの家の庭に散っても、少しだけ冷え込む空気が二人の距離を縮めて、ぬくもりまたひとつ。明るい未来じゃなくていい。二人で手を繋いでずっと歩いて行けたなら。