「先輩は幽霊って信じます?」

灯りのついていない暗い部屋の中で、越前はオレにしか聞き取れないほどの小さな声でこんなことを言った。小さな小さな声であったのに、何故か部屋中に響いているようだった。


ゴースト&ゴースト


今、オレは越前の家に泊まりにきている。そして客間らしき場所で布団をしいて、越前と隣り合って寝ているのだ。時刻は大体12時。テレビゲームに夢中になりすぎて、いつもよりも少し遅い就寝になってしまった。ちなみにゲームの勝敗はオレの勝ちだった。伊達に弟と遊んでないからな。

ことの始まりは二日前。オレは越前に家に泊まりにこないかと誘われた。日曜日は部活も休みで、トレーニングをするつもりだったのだが、テニスコートがあるから打とう、などといった誘いについ乗ってしまったのがいけなかった。酷く後悔している。テニスコートがある場所はどこだ。・・・・・寺の境内じゃねぇか!!!


「・・・・信じてねぇ」
「ふーん。ねぇ、この部屋の隅にさ、人形が置いてあったの見た?」


越前はオレの言葉を素通りして話を続けていく。人の話はちゃんと聞くべきだとは思わないのか?ああ、人形?そういやあったな、やけに髪の長い日本人形が・・・・。


「あれ、髪伸びるからお払いしてくれって言われてるんだけど放置してんだよね」
「・・・・」
「あとはさ、よく心霊写真とかもお払いにくるんだけど」
ヤメロ
「この間見たヤツなんて凄くて、足が半分消えてたりとかして・・・」
ヤメロ
「そういえば不二先輩も心霊写真撮ったって言ってたなー」
「やめろっていってんだろーが!!!」


声を荒げたオレに驚く様子もなく、越前は笑ったかのように見えた。暗闇の中ではそうそう表情は読み取れないが、コイツはオレの嫌がる顔が好きらしいのだ。まったく、悪趣味にもほどがある。


「ねぇ先輩。手ぇつないでもいい?」
「は?」


越前はオレの許可も待たずに手を握った。暖かくて安心する。子供体温、そういったらきっと怒るだろうと思ってやめた。暑かった夏に比べて秋になってからは随分と過ごしやすくなってきた。きっと夏だったなら、暑苦しいと一喝して、すぐさまこの手を離していただろう。だけど、もう秋だから。


「これで怖くないでしょ?」と、また越前は暗闇の中で笑った。オレがお化けが苦手なのを知っていて怖がらせたくせに。悪趣味だ。本当にコイツは悪趣味だ。だけど、季節のせいなんかにして、この手を手放せないオレも同罪だ。お化けが怖いから手を繋ぐんじゃなくて、暑くないから手を離せないんじゃなくて、何かしら理由をつけないと触れられないこの手を。オレはずっと離せないんじゃないかと思う。


「幽霊なんている訳ないじゃねーか」

手は繋いだまま、ぶっきらぼうに言葉を返す。ぎゅっと繋いだ手に力が入って、「いるかもしれないじゃん」と小さく呟くのが聞こえた。


「俺が死んだら先輩の背後霊になって後付回すからヨロシク」

そういって越前は布団を被って寝入ってしまった。残されたオレはどうすればいい?言葉の意味を理解して赤くなった顔で、部屋の隅の方をチラリと見た。そこには長い髪の女が立っていた。



暗転。


その日以降、海堂が泊まりに来るときは越前の自室で寝るようになったらしい。


2004/9/22