Sweet&bitter
甘い香りが、くすぐったい。
慣れない雰囲気の店。
喫茶店って言ったら、…怒られた。
『カフェ』、なんだって。
別にどっちでもいいんじゃんって思いつつ、ちらちらその横顔を見つめる。
久し振りに、二人で日曜を過ごした。
駅前で待ち合わせして、並んで歩いて。
字幕ばっかの映画見て(殆ど内容、覚えてないけど)、並んで歩いて。
ちょこっとスポーツ店覗いてから、ここに来た。
普段のオレなら、絶対入らない、オシャレなお店。
甘いケーキの匂いと、…女の子の視線。
…そりゃ、そうだよな。
こんな店に男二人。目立つに決まってる。
しかも、ご一緒してるのが跡部景吾様サマだから、視線を避ける方が難しい。
…そう。さっきから、ずっと気付いてた。
一緒に歩いてると、必ずって言うくらい、女の子が振り向く。
…恥ずかしいヤツー、って思う、…反面。
実はちょっとだけ、優越感だったり。
…なんて、口が裂けても言えない。
一瞬、過ぎった自分の思いを振り払うように、
オレは一口、ケーキを口の中に放り込んだ。
お、美味い。
甘過ぎないチョコレートが舌の上で程よくとろけて、
オレは続けて一口、二口と食べた。
その様を見ていた跡部が、ちょっと呆れたような声で言った。
「…お前、…よくそんなモン、食えるな…」
「…ん?美味いぜ、このケーキ。そんな甘くないし…」
反論するのもめんどくさくて正直に答えると、
跡部はふーんと一言呟いてから、黙った。
カップを持ち上げた手を下ろして、オレを見る。
な、なに…?
ちょっとビビって、思わず姿勢を正してしまう。
「な、なんだよ…」
フォークを下ろして、ちょっと怯え気味に跡部を見上げると、
意地悪そうな目と合う。
うわ、きっと嫌な事、思い付きやがった。
話しを逸らすように、オレは今跡部が下ろしたばかりのカップを指差す。
「…アンタこそ、良くそんなの飲めるよなー」
小洒落たカップ(何とかってブランドらしいけど、オレには全く興味ない)
の中身は、…砂糖もミルクも入ってない、、ブラックコーヒー。
ムカツクくらい平然と、それを飲んでやがる。
しかも、それがちょっと様になってるから、尚更ムカツク。
そんなオレの内心を知ってか知らずか、跡部はちょっと苦笑してから、
カップを持ち上げた。…俺に向かって。
「ガキには、分かんねェ味なんだよ」
くっそ、余計なこと言うんじゃなかった。
自分の一言を後悔しつつ、オレは悔し紛れに跡部のカップを奪った。
「貸せよ、…ブラックくらい、オレだって……」
言って、オレは跡部のカップに唇を当てて、一口、流し込んだ。
「………ぅっ」
マ、…マズ……っ。ニガイ、…ニガ過ぎる……。
何だ、これ!?
余りの苦さに、オレは口元を押さえ俯いた。
それでも、さすがに吐き出す訳にはいかないから、
何とか飲み下し、声も無くうめく。
うわー、跡部のヤツ、絶対バカにした目でオレを見てる。
でも、そんな事気にする余裕も無いまま、オレがその後とった行動は。
「……ケ、ケーキ!!!!」
目の前の、甘い甘い、チョコレートケーキ。
慌ててフォークを取り、大きな欠片を口に放り込む。
甘くて、ちょっと苦い、チョコレート。
でも、すぐに甘さは口内に広がらなくて、…僅かなタイムラグの後、
ようやく、しっとりとオレの味覚を癒し始めた。
ちょっと落ち着いて、…溜息を吐いてから、視線を上げた。
…上げて、合ってしまった。
案の定、バカにしたような跡部の視線。
くっそ、…視線、合わせらんねえ。
耐え切れず視線を逸らすと、跡部の苦笑が小さく聞こえた。
「ホントに…、バカだな、神尾」
呆れたような、でも、ちょっと優しい声。
チラリと横目で跡部を見ると、…少しだけ笑った目元に、思わず息を呑む。
もしかして、…オレ、甘やかされてる?
オレのバカな行動。もっと怒るかと思ってたのに。
仕方ないなァ、って、笑ってくれるのか?
…なんて、ちょっと甘い気持ちになったりして。
「どうせ、…バカだよ、オレ…」
少しだけ、甘えたように言うと、跡部はフン、と笑う。
「ったく、…本当にガキだな。…ココ、どこだと思ってんだよ?
…ちゃんと、回りを見て行動しろ」
言って、跡部は不意に手を上げた。
…カフェのテーブルは、妙に小さい。
おしゃれに作った、ってだけで、実用性もないもない。
だから、向かいに座っているとはいえ、お互いの距離は近い。
「…跡部…?」
少しだけ、跡部が腰を浮かせたのに気が付いた。
こっち、来るのか?
そう思うまもなく、オレと跡部の距離が、縮まる。
伸ばされた跡部の手が、オレの頬に触れた。
したくも無い緊張で、オレは思わず身を硬くする。
「な、…なに…?」
返した声は、情けないくらい小さくて。
なんで、こんなに緊張してんだよ、オレ。
そんなオレに、跡部は低く言った。
「…黙ってろ…」
そう言って、跡部はオレに顔を寄せ……、
…な…っ。
一瞬。何が起こったのか分からなかった。
かろうじて分かったのは、頬に触れた温もり。
「…ななな、……っ!」
「……チョコなんて、付けてんじゃねえよ…。
…ホント、ガキだな……」
跡部の言葉に、漸く我に返る。
慌てて頬に触れ、少し濡れている事を確認する。
…驚きのあまり、声も出せなかった。
な、舐められたってことか…!?
オレ、跡部に、頬を舐められたのか…っ?
「て…っ、てめェ…!!!!な、ななっなんてこと…っっ!」
「…煩ェな、神尾…?場所、考えて行動しろって言っただろ?」
飄々と言ってのける跡部に、言い返す言葉は一つだけ。
「それは、てめえの方だろ…!バカ跡部……っ!」
一応、少し音量を押さえて跡部を怒鳴りつけると、
…全然答えてない顔で、不敵に笑って見せる。
「…本当に、甘いな、…神尾……?」
余裕の笑みを、オレは苦々しく見つめる。
…跡部と二人きりの時間を過ごすのは、
甘いようで、…時々、凄く苦い。
…けど、それがちょっとクセになるだなんて、
一生、言ってやらないけどな、跡部?
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SONIC SMASHの風間きわむサマから戴きました。
4444ヒットのキリ番!!
風間きわむサマ、ステキな小説を有難う御座いましたvv