例えば、この世の中に要らないものがあるとするならば
それは私の魂であり、言葉であり、私を拒絶する全てのものだ。
涙と血液は同じ成分で構成されているらしい。
だとしたら私が今流しているのは涙などではなく血液であり、
手首から流れているのは涙なのだろう。
赤い涙にしょっぱい血液。濁々と流れるそれらが混じりあう。


さん」


辰羅川が泣きそうな顔をしてこちらをみる。
まるで君を泣かしている気分だ。爽快感。楽しい。
君を泣かせるのは本当に楽しい。
歪んだ顔もキレイだね。好きだ。私は辰のその顔が一番好き。
心配してる顔も怒った顔も好き。
だけど一番、泣きそうになる辰の顔は本当にキレイなんだ。


「そんなに飲んで、ああもうどうして」


私の周りに散乱するアルコオルの残骸。
弱いくせに好きなんだ。まるで私みたいだからかな。
酔うと自分が要らなくなるような気分になる。
君のせいではないよ?違うんだよ?だからそんなに泣きそうな顔しないで。
ほら私は大丈夫だから。まだ生きてるよ。ヤダね。死にたいのに。
消えてなくなって誰にも迷惑かけないようにしたいのに。
情けない、死にぞこないだなぁ、ほんと。


「なんでそんなこと云うんですか!」


血まみれの私をまるで世界から隠すように抱きしめる辰の腕。
ぎゅっと力強く、だけど優しく。私をここに留めさせる。
要らないと思った私の身体が実体をもつ瞬間。
君の腕の中にいるのはまぎれもない、現実。


「もうこんなことはしないと、約束してください」


駄目だよ。そんなこと出来やしない。
だってそのセリフは過去に何回も君が私に言い聞かせた言葉だ。
だけど私はうん、と頷く。素直に。もうしないと云う。
嘘をつくわけでもなく。君の言葉をかみ締める。
もうしない。自傷行為も、君を泣かせることも。しない、しないよ。
だからもう少しこうしていて?






明日になったらまた朝が来て、月が昇ってまた朝になる。
繰り返す日常にはもう飽きてしまった。何もかも要らなくなった。
手にしたものも放り投げて。
未練というのは君の笑顔が思い出せないことくらいかもしれない。
どうしても思い出せない。泣かせてばかりいたからかもしれない。
泣き顔はふっと思い出せる。好きな顔。
私が一番好きな辰の顔。キレイ。とても好き。


さん!」


今日もまた、君の言葉も存在の意味も忘れて私は、またアルコオルを煽る。
ただ君に抱きしめて貰いたいがためだけに増えていく傷は私の誇りで、
これからも増えるのは明らか。
その度に君の笑顔を思い出すように、泣かせないように、
私は嘘をつきつづけてしまうのだろう。
まるでそれは決して終わらない追いかけっこのようで
私は少し声をあげて笑い、そしてとても泣きたくなった。


君よ、愛しい君よ。
もし私がいなくなったら、世界の果てで待っているよ。
そしたらねぇ、追いかけてきて、
またきつく抱きしめていてくれるかしら?


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こんな暗い話になるにはそれなりのいきさつがあるわけです。