あなたの魅力 私の魅力 少しずつ少しずつ 気付いていくもの 恋の種 「今度の週末、もしもお時間がありましたら、どこかに出かけてみませんか? 話をすればもっとあなたの魅力が分かる気がするので。 色好い返事をお待ちしています。」 そう言って彼は、携帯の番号とメルアドを記した小さな紙を私に手渡した。 これが私と彼との始まり。 学校が休みのある土曜日。 私は、委員の用事で聖ルドルフの敷地内を歩いていた。 すると、教会の近くにある並木道で一人泣いている男の子がいた。 幼稚園の年長か小学校低学年くらいのその子は、あまり声を立てずに泣いている。 「ねぇ、どうかしたの?」 私が声を掛けると、嗚咽をこらえながら口を開く。 「お、お母さん、とはぐれ、て…っ」 「そうかぁ。ここにはお母さんと一緒に来たんだよね?」 男の子の頭を撫でて尋ねると、コクンと頷いた。 「心配しなくても大丈夫だよ。先生に頼んで放送してもらうから。 お母さんを呼んでもらおうね。」 しゃがみながら笑顔で言う私に、男の子は目を合わせてくれた。 手を繋いで歩き出す。 そのとき。 「晟!」 若い女の人が名前を呼びながら、私たちに駆け寄ってきた。 男の子は目を涙でいっぱいにさせている。 「お母さん!」 2人は距離を縮め、抱き締めあった。 男の子は今までと打って変わり、大きな声で泣いている。 お母さんと会えて、緊張の糸が解れたんだろう。 女の人は「ごめんね」と言いながら男の子の頭を撫でていた。 「どうもありがとう。ご迷惑をおかけしました。」 「いえ、私は何もしていませんから。でも、見つかって良かったです。 あきら君? 良かったね。」 「うん! ありがとう、お姉ちゃん。」 男の子と女の人は手を繋いで帰っていった。 2人とも輝くような笑顔で。 私も、自然と笑みが零れてくる。 「優しいのですね。」 突然、後ろの方から声が聞こえてきて驚いた。 振り向くとそこには、優雅に波打つ髪、意志をどこまでも貫きそうな瞳、滑らかそうな白い肌、 そして、綺麗と形容しても何等差し支えない容貌をした少年が立っていた。 彼は、ああ、そうだ。 このルドルフ内で知らない人はいないと思われるくらい有名な人。 「…観月、くん?」 「ええ、僕のことをご存知でしたか。嬉しいですね、んふ。」 「まあ、有名だから…」 「そうですか。…さっきのやり取り見ていましたよ。」 「え、」 「あなたは優しい方なのですね。思いやりを持った方は好きです。」 「そう、なんだ。」 私には、彼の言いたいことがよく分からなかった。 愛の告白ではなく、好意の表現。 それはとても嬉しかったけれど、受け取ってどう返したらいいのかが分からない。 観月くんは、そんな私の胸中には関係なく言葉を繋げた。 「今度の週末、もしもお時間がありましたら、どこかに出かけてみませんか? 話をすればもっとあなたの魅力が分かる気がするので。 色好い返事をお待ちしています。」 家に帰り、落ち着いて考えた結果、その誘いに乗ることにした。 『話をすれば…』 確かに話してみないと人なんて分からない。 観月くんのことを知りたいと思ってしまったから。 そのときの私はまだ、これが恋の始まりだとは気付いていなかった。 次の土曜日の朝10時。 私と観月くんはルドルフの校門前で待ち合わせしていた。 時折吹く風が、木の葉を揺らしている。 門が見えてきたとき、その傍らに優雅な立ち姿を見つけると、心なしか歩調が速くなる。 その人物も私に気付いている模様。 「おはよう、観月くん。」 「おはようございます、 さん。」 自分から挨拶をしたものの、心の中は緊張でいっぱいだった。 明るく元気良くなんて言えていない。 それでも観月くんは笑顔で応えてくれたから、少し心が軽くなった。 「今日は来てくださって、ありがとうございます。 どこか行きたい場所などありますか?」 「んー、行きたい場所…、観月くんのおすすめとかある?」 「ええ、ありますよ。あと、ちょっと行ってみたい所とかね。 そこでもよろしいですか?」 「うん。お願いします。」 本当は、私の方こそ誘ってくれてありがとう、と言いたかったけど、タイミングを逃してしまった。 でも、どこへ連れて行ってくれるのか楽しみで、胸は弾んでいた。 ルドルフから電車で2駅、徒歩で10分くらいのそこは、おしゃれなカフェだった。 テラスが通りに面してあり、とても街中の雰囲気に溶け込んでいる。 「わぁ、なんか、おしゃれなカフェだね。」 「んふ。そうでしょう。僕のお気に入りの場所なんです。」 「そうなんだ。…ちょっと意外だな。」 「そうですか?」 「うん。ここってけっこう人通りあるでしょ? 観月くんは、もっと静かなところが好きそうだから。」 「確かにそうですね。でもここは…。 まあ、続きは席についてからにしましょうか。」 カフェに入り、店員に案内されるまま席についた。 そこは、テラスとガラス1枚で隔てられた屋内のテーブルで、外の通りが見える。 「ここは、僕の指定席なんです。 店内は落ち着いた雰囲気で静かでしょう?」 「うん。」 店内は木の深みが良い雰囲気を醸し出し、明るすぎず暗すぎない照明だ。 BGMには、オルゴールバージョンのJ-POPが年代様々に流れている。 その音量も耳につかない程度に計算されていた。 「こうやって自分は静かな場所にいながら、通りを歩いていく人を見るのが好きなんですよ。」 「そうなんだ。人物観察?」 「ええ、そうですね。 僕の役目の中に偵察も含まれていますから、日々その目を鍛えておこうかと。」 観月くんは私の言葉に少し笑みを零しながら、話してくれた。 今まで知らなかった観月くんだった。 噂に聞いていた観月くんは、少し怖い印象だった。 怖いというより、冷たい、かもしれない。 けれどあの日、私に声をかけてくれた彼は、そんな噂を疑わせた。 だから、本当の彼はどういう人なのか知りたくなって誘いを受けた。 そして今、その答えが見えた気がする。 こんな風に優しい表情を飾ることなく出来る人。 この印象は強烈に私を惹きつけた。 あの出会いから約4ヶ月。 今、観月くんと私は、友達以上恋人未満と言われる関係。 ここからあと一歩進むのは、時間の問題。 あと少しでも彼の魅力に気付いてしまったら、きっと抑えられないから。 これからも、少しずつ少しずつ。 観月くんのことを知っていきたいな。 Fin ***************************************************** 素敵な観月夢を戴きました。呼吸の仕方を忘れるくらい、観月に夢中です。(060407) |