彼は強い  誰よりも強い

でも  真に強いのは…





彼の上をゆく者





キーンコーンカーンコーン

今日も聖ルドルフの一日は無事に終わった。


男子テニス部のマネージャーである観月は、部室へと急ぐ。
これは日課のようなものだった。授業が終わると自然、部活へと意識が向いてしまう。
これも、マネージャーの性というものだろうか。



今日も一番乗りかと思い、ドアを開ける。


「おや。さん、今日は早いですね。」


するとそこには、同じくマネージャーであるがいた。


「うん。たまには、観月より早く来よーって思って。」

「走って来たのですか?」

「うん。まあね。」


のクラスと観月のクラスが終わる時間はほぼ同じであったため、観月はこんな問いをしたのだった。

は、部室の中央を陣取っている長椅子に座っていた。
しかも、通称食料庫のすぐそばに。
この食料庫には食べ物はもちろんのこと、飲み物も常備されている。
一息ついたらしいは、おもむろに食料庫に手を伸ばし、飲み物を手にした。

その姿を見て、観月は小さな溜め息を漏らしながら呟く。


「今日もまた、その場所を陣取るのですか…。」


そんな、独り言のような観月の言葉を聞き取り、は言葉を返した。


「そうよ。悪い?」

「別に悪くはありませんが…、」

「じゃあ、いいじゃない。」


観月の、後に続く言葉はによって遮られてしまった。

そう。いつも、こんな調子なのだ。
決して自己主張が強いわけではないが、どうにもやりこめられている。
あの観月が。

普段の二人の関係は他の部員同様、わずかに(部員の場合は大いに)観月の優勢。
しかし、ふとした瞬間にそれが逆転するのだ。
始めこそ、少し嫌な気もしたが、今では心地好いとまで感じている。

そう感じ始めるのと、と付き合いだすのと、どちらが先だっただろうか。




そこへ、やる気に満ちたレギュラーの面々が入ってきた。
今日はスクールではなく、学校で練習する日だ。


「やっぱり、今日も一番乗りは観月とだーね。」

「ほんとだ。相変わらず仲がいいね。」

「こんちはっす。観月さん、さん。」


ここで観月は、人数が足りないことに気付く。


「赤澤と野村と金田はどうした?」


全員が一緒に来るなどということはないが、いつもの時間に来ないのが気になった。


「野村は、終礼が長引いてるみたいだったよ。」

「金田は、掃除当番です。」

「赤澤は…、知らないだーね。」

「そうか。仮にも部長のくせに何をしてるんだか。」

「あ、私知ってるよ。」


観月の呆れ声に答えたのは だった。
その場にいた皆の視線が、に集まる。


「赤澤はね、居残り。」


その言葉を耳にすると、観月は盛大な溜め息を吐いた。


「何故なんですか?」

「んーと、確か、今日提出するはずの古典の文法プリントをやってなかったから。」

「馬鹿ですね。」

「馬鹿だね。」

「馬鹿だーね。」

「流石、バカ澤さんですね。」

「うん。バカ澤なの。」


仲間に対して、いや、部長に対して酷い仕打ちである。
だが、これでも皆、赤澤には部長としての信頼を持っているのだ。
仲間だからこその軽口でもある。


「では、始めましょうか。」

「そうだね。じゃ、観月に注目ー。」


赤澤以下レギュラー3名を欠いたまま、いつも通り観月の説明から部活は始まった。




開始して数分後、金田が合流。


さん、遅れてすみません!」

「気にしなくていいよー。観月もちゃんと了承してるから。」

「ありがとうございます。あれ? 赤澤部長はいないんですか?」

「うん。バカ澤だから。」

「?……」


その二分後に合流した野村にも、は同様の受け答えをした。
ただ、野村にはこの一言もプラスされた。


「あ、キャサリン先生、彼氏いるみたいだよ。」

「え!? キャ、キャサリンが…、」

「薬指に指輪してるの見た、ってが言ってたから。」

「でも、指輪だけじゃ…、」

「うん、だから『みたい』って言ってるじゃん。」

「そっか。」


野村は、少しほっとしたようだ。
だが、は追い討ちをかける。


「でも、自分で買った指輪を、わざわざ薬指につける人も少ないと思うけどねー。」


その日の野村はミスばかりで、観月の特別メニューを頂いたとか頂かなかったとか。



このような点で、観月とというカップルは部員たちから一目置かれていたりする。
は得てしてのことではないようだったが、自分にそういう才能があると気付いていないのも厄介だ。
逆に観月は自信を持ち過ぎていて厄介だが。


観月と


同じマネージャーという役職についてはいるものの、部活中の役割は少々異なる。

はドリンクやタオルの用意、部室の掃除など一般的なマネージャーの仕事をしている。
一方、観月はメニューの作成や練習試合の段取りなど、監督のような仕事をしていた。
もちろん、選手としての練習時間も確保している。


「観月、はい。」

「あ、ありがとうございます。」


タオルを手渡したに、笑顔で礼を述べる観月。


(いつも、こうであれば平和なのに…。)

部員たちは心の中で思ったが、誰一人口には出さなかった。




そこへ漸く、部長赤澤が合流した。


「遅れてすまん!」

「あ、バカ澤が来た。」

「来ましたね、バカ澤。」

「慎也、バカ澤だよ。」

「お、バカ澤だーね。」

「バカ澤先輩、こんちはっす。」

「「?」」


赤澤の遅れた理由を知らない金田と野村は、「バカ澤」を連呼するレギュラー陣を不思議そうに見る。
当の赤澤は一瞬呆けた後、騒ぎ出した。


「何だよ! バカ澤バカ澤って。」

「馬鹿だから、そう呼んでるだけだ。」


そんな赤澤に冷たく言い放つ観月。


「俺のどこがバ、カ……あぁ! 、おまえ…、」

「赤澤、何か?」


観月に負けず劣らず冷たく問う


「あ、いや…、俺の居残りのこと話したのかなぁって、」


はは、と軽く笑いながら、当初の勢いはなしに言う。
それには笑顔のまま答えた。


「うん、言ったよ。そしたら、みんながバカ澤って言い出して。」

「お、まえらな〜、」

「え、赤澤部長、始めに言い出したのは俺じゃないっすよ。」

「俺でもないよ。」

「俺でもないだーね。」

「じゃあ、誰が…」


皆の視線が観月に集まる。
それだけで悟った赤澤はおとなしくなり、気を取り直して言う。


「よ、よーし! 練習再開だ!」

「「「っす!」」」


部長赤澤の掛け声に従い、皆、動き出した。


そう。赤澤はまんまと騙されたのだ。
意外に狡猾な裕太。やはり、あの不二周助と兄弟なのだ、と妙に納得している観月たちであった。





そして、その日の練習も滞りなく終わった。
挨拶が終わり、部員たちはぞくぞくと部室へ引き上げる。

そんな中、は観月へと駆け寄り、休憩時と同じようにタオルを手渡した。


「お疲れ様。」

「ああ、ありがとうございます。」


受け取ったタオルで汗を拭う観月を見る。

肌の弱い観月は、長袖のジャージであることが多い。
それゆえ、観月の肌は白かった。
元が白いのもあるが。

はその白さを目にする度、悔しくなる。
も白い方ではあったが、彼氏の方が白いというのは女の子として面白くない。
思わず不機嫌な表情になったのを、観月に気付かれた。


さん、またそんな顔をして。」


呆れた声で言われたは、決まり悪そうに言い返す。


「そんなこと言ったって、悔しいものは悔しいもん。」


部活前のやり取りでは観月を負かす程だったのに、今はその面影がない。
でも、どちらもそのもの。
そんな一筋縄ではいかないが、観月の心を捕らえたのだった。

また、いつこの立場を逆転されるか分からないため、観月は今のうちに言っておくことにした。


さん、そんなことを言っていると……、僕が白よりもっと素敵な色にしちゃいますよ。」

「………〜〜もぅ、知らない!」


少し考え、観月の言わんとしていることに気付いたは、見る見る赤くなり、
観月にそう言い捨てて、その場を離れてしまった。




そんな二人の様子を見ていた赤澤らは、こんなことを呟く。


「また、観月フラれてるぜ。」

「まあ、しょうがないんじゃない? まだ中学生だし、だし。」

「そうだーね。は純真だーね。」

「純真なのに、何であんなに強いんでしょうね? さん。」

「本当だよ…、おかげで今日はあんな目に…。」

「野村先輩…。」


金田が、不憫な先輩を気遣って声を掛けた。
その他の面々も、同情した目で野村を見ていた。


「ま、最終的には、がこの部で一番強いよね。」

「だろうな。あの観月に勝てるのはあいつだけだし。観月に手を出させねーし。」

「あの、観月さん達はどこまでいってるんですか?」

「ああ、キスもまだだよ。」

「え、そうなんすか?」

「うん。あの観月に、あのだからねー。」


キスもまだなら、それ以上のことは論外じゃないか、と心の中でつっこんだ祐太であった。




その頃、当の観月はの小さくなっていく背中を見ながら、笑みを浮かべていた。


観月はが愛しくて愛しくて仕方がない。
だからこそ、大切にしたくて大切にするあまり、手が出せなかった。
がそのことに気付くまで、観月は手が出せないだろう。


やはり、一番強いのはであった。



                               Fin
2004.9.21



―――――あとがき―――――
キリ番…999。リク者…結城はじめさん。相手…観月さん。設定…マネージャー。
内容…ドタバタ、コメディー系。
キリリク作品2作目。ルドルフであること、ドタバタ系であることにより、少々長くなりました(苦笑)
「夢」と呼んでいいのか疑問も残りますが、最後に無理矢理、夢っぽくしてあります。
ルドの面々は書いていて楽しいので、どうしてもギャグっぽくなってしまうのですよー。
今回は、レギュラー全員出演を目指しました。ついでにキャサリン(英語教師)も。
名前だけの登場となりましたが、続きも書けそうですね。
「キャサリンの指輪の真相は!?」みたいな(笑)
あらすじのよく分からない話となってしまいましたが、結城さん、どうかお受け取り下さい。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

碧素異英士〜ブルー・キッド〜」:原谷 凛

-----------------結城が何かいってるよ---------------------------

こちらの夢小説にメロメロで通っていたらキリ番を踏み、こんな素敵な小説をいただきました。

ルドルフの皆との会話が面白い上に、最強彼女設定。

観月のセクハラ発言に私も頬をそめつつ(キモ!)たっぷり堪能させていただきました。

またキリ番を狙おうと思います!原谷サマ、本当に有難う御座いました。