<恋はやたら素晴らしい>


毎年恒例の俺の誕生日会には、俺の背景にある莫大な資産と自画自賛しても足りないくらいの美貌を求めて、何人かの花嫁候補が出席している。そんな見え透いた魂胆で近づく彼女たちを振り切って、部活の仲間たちの中にいる、ひとりの少年を見つける。美味しそうに料理を頬張る姿を見ているだけで、心が満たされた気分になる。大して美形な訳でもないけれどどこか愛嬌のある顔立ち。生意気でお人よしで泣き虫で。つい苛めてしまいたくなるし、とことん甘やかしてやりたくもなる不思議なヤツを。

「景吾さん」


そんなことを考えていた俺に横から声がかかる。確か、去年も来ていたヤツだ。ここにいるってことは何処かの社長令嬢あたりか。確かにキレイな顔をしてるかもしれねぇが、俺には及ばない。性格なんて知らないし、興味もなかった。「誕生日おめでとう御座います」と彼女はプレゼントを差し出した。礼を言って受け取ろうとすると、彼女の足がもつれて俺に寄りかかった。それが計算なのかは判らなかったが、周りにいた女たちの目が一瞬鋭くなった気がした。彼女は突き刺さる視線をものともせずに、「ごめんなさい」と云いながらも離れようとはしなかった。俺は「大丈夫ですか?」などと気遣ったように見せかけて体を離した。(もしこれが神尾だったら・・・?)あの鋭い視線をどのように受け止めるのだろう。彼女のように何もなかったかのように振る舞えるだろうか?きっと視線に耐え切れなくなって、謝りながら逃げ出すに違いないと想った。



「よぅ、楽しんでるか?」


俺は招待した部活の仲間たちに声をかける。彼らは料理を食べることをやめ、次々と祝福の言葉が投げかけられた。プレゼントは先に学校で受け取った。大きいものでいえば、氷帝のロゴが入った旗に200人の部員たちからのメッセージ。「何処に飾ればいいんだよ」などとため息をついたのだけれど、内心はとても嬉しくて。それから、各々に用意したというプレゼントたち。こいつらの個性をあらわしているようなものばかりでなかなか面白かった。

「神尾くんならお手洗いやで?」


近くにいると想っていたのに、何処を見渡しても神尾がいないことに不審に想っていた俺に忍足が先回りをして云った。それから、すっと寄ってきて「あんまり不安にさせないほうがええで、色男はん」などと耳打ちする。ここからは死角になっていて見えないかと想っていたのだが、どうやら先ほどの件を見られていたらしい。俺は踵を返して神尾のいそうな場所へと移動した。忍足が何か言いかけたが聞き取る余裕はなかった。




「言い訳なら聞かない」


やっとの思いで見つけたコイツは既に泣きそうな顔をしていた。「別に、言い訳なんてしねぇよ」「堂々と浮気を肯定すんのかよ!」テラスに設置されたベンチに座りながら、今にも泣きそうな顔で、キッと俺を睨みつける。コイツは生意気でお人よしで泣き虫で、それでいて妙に嫉妬深いのだ。そして、思考回路は支離滅裂。ただ体を支えただけなのに浮気だと決め付けたりもする。俺がどんなにお前のことが好きかも知らないで。付き合った当初にも同じようなことがあって、俺は散々頭を悩ませたものだった。何をしたってコイツの機嫌は直らなくて、キレた俺が言った一言でコイツはボロボロと泣いたのだ。

「俺だって跡部のことが好きなのに」
「いつか跡部が俺を捨てるんじゃないかって」
「不安なんだ」
「俺なんかとは釣り合わないってわかってるのに」


涙としゃくりあげる声で途切れ途切れのこの言葉を聞いて、俺はコイツが好きなんだと改めて想ったのだ。一番大切で愛しい存在。対等な関係でありたいとは想うけれど、どうしても守ってやりたくなるような気持ちにさせられる、極上の恋人。


「お前がいるのに浮気なんかするかよ」


俺はため息をつきながら、彼女が足を滑らせたことを話す。完全なる言い訳だと想いながらも、こうでもしなければ誤解は解けないことは今までの経験上判っていた。話しながら、先ほどまでベンチの端と端に座っていたのが嘘のように、その距離を縮めていく。未だ疑心暗鬼の神尾に、「もしお前が倒れてきたら姫だっこで医務室まで連れてくけどな」と囁けば。

「恥ずかしいから駄目」


下を向いて赤くなった顔を隠すようにうつむく神尾の機嫌は先ほどよりもずっとよくなっているに違いない。言い寄ってくる女は幾らでもいるのに、こんなに手のかかる恋人が一番だなんて、と跡部は苦笑する。それでも。


「だけど、どうしても好きなんだ」


いつだってお前は想像以上の言葉をくれるから。




パーティが終わり、皆が家路についた頃。神尾は俺の部屋でくつろいでいた。「誕生日プレゼントはお前がいい」そう言って抱きしめた。それから、俺の何処が一番好きか云ってみろよ、と軽いノリで振っただけの話に、お前は頭を抱えながら、「一番好きなところ・・・?」と足りない脳みそであれこれ考えていたよな。それから、「全部」と小さく呟いた。顔を真っ赤にして。そして、「一つになんて絞れない」なんて可愛いことを云う。それでも嬉しかったが、一つだけ、と意地悪く詰め寄った。「そういう、跡部はどうなんだよ」と口を尖らせたから、俺は「全部」と答えた。お前の全てが愛しくて、どうにかなってしまいそうだったから。その瞳も声も手足も心も全て。全て俺のものにしてしまいたかった。俺は更に赤く染まったお前の頬に触れた。「そんなのズルい」と言いかけたお前の唇を塞いで、「確かに一つになんて絞れねぇな」と答えたんだ。



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おめでとう跡部。永遠の15歳。今年も間に合ってよかった。毎年のように跡部の誕生日プレゼントは神尾です。誕生日でなくても神尾は跡部様の主食でありつづけると宜しい。支離滅裂なのは神尾の頭ではなくて私の文章です。ベカミ愛は果てしなく!(2005/10/04)