視界に入れば追わずに入られない。
手を伸ばして触れずにはいられない。
きっと、これは盲目の恋だから。

 


Love is blind


 



「みーづき!」

声をあげて後ろから抱き付けば、ジロリ、と睨み顔。
裕太とのメニューの打ち合わせに俺は邪魔なんだろう。
わかっている癖に邪魔せずにいられないのは、
観月を独占している裕太への多少の嫉妬心。

部の為に、裕太のために考えてくる観月のメニューは
彼の睡眠を削った上で作られている。
昨晩も遅くまで起きていたのだろう。
少し目が腫れぼったい。

「なんですか?」

12センチという身長差のせいで、
どうしても上目遣いになる観月の顔は相変わらずキレイで、
儚いガラス細工のようだ。
見ていると吸い込まれそうになる瞳は俺のお気に入りだが、
今回ばかりは俺に対しての厳しい視線。
まるで「早くどこかいけ!」と云っているような・・・。

俺は仕方なくベンチに座り、他の部員たちを観察する。
レギュラー陣はそうでもないが、他の部員たちは気もそぞろで、
何かしら集中力に欠けているような気がする。
夏休みが始まって二週間とちょっと。
マネージャー特性のメニューに弱音をあげてしまったのだろうか?
昨日までとは違う空気がテニスコート内を覆っていた。

「金田っ!」
「は、はいっ!」


その空気を払拭したくて、
かつてのダブルスパートナーであった二年を呼ぶ。

「暇か?打ち合い付き合え〜」


そうやってテニスに打ち込んでいれば、
この妙な空気も晴れるような気がして。
裕太にばかり構っている観月を見ることも少なくなることを思って。



「赤澤部長、誕生日おめでとう御座います!」

部活を終え、着替え終った俺を待っていたのは、
テニス部部員の勢ぞろいの図。
その中の一人、金田が俺にプレゼントを差し出す。

(この光景、どっかで見たことあるなぁ・・・)

それは五月末にあった観月の誕生日の日。
いつもメニューを作ってくれる有能マネージャーに
感謝を込めて、部員たちがプレゼントを用意していたのだった。
中身は、バラ柄のクッション。
観月はこれを部室のイスの上に置いて使っている。
好みに煩い観月にしては気に入っているようで、
部員たちも贈った甲斐があるというものだろう。

そして、今日、八月三日は俺の誕生日である訳で。
早朝からずっと部活で、親にさえ言われてなかったその言葉に
思わず笑みが零れた。

「ありがとな!」

そう言ってプレゼントを受け取る。
その中身は・・・・・・。


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プレゼントを貰い、部員全員に祝福の言葉をかけられてから気付く。
金田に裕太、木更津や柳澤、野村までいるのに、
観月の姿がどこにも見当たらないことに。
本当は誰よりも祝ってもらいたかったんだけどな、と
人知れずため息をつきながら、そういえば、
メニュー作りで疲れていたのかもしれないと思った。

そして、校門を目指し、教会までたどり着いた先で。

「赤澤」

それは決して大きな声ではなかったのだが。
それでもはっきりと耳に残る、心地よい響き。
観月の声だった。

「メール、みてないでしょう?」

しかめっ面の観月に促されて、ケータイを見てみると、
確かに観月からのメールが一通届いていた。

「まぁ、別に判ってましたけど。皆からは何を頂いたんですか?」

何でもお見通しのマネージャー様は判っていながらそれを尋ねる。

「レトルトカレーの詰めあわせ、だ」

袋いっぱいのカレーに嬉しさを感じつつ、
今日の夕飯もきっと好物のカレーに違いないと思った。
まぁ、俺は毎食カレーでも平気なんだが。

「それは良かったですね。思う存分、黄色くなってください」

んふっと笑う観月の減らず口は相変わらずで、

「それで、お前は何をくれるんだ?」

俺は観月の手にしている包みを指差した。



「おや、図々しいですね。誰も貴方にあげるとは云ってないでしょう?」

けれど、それはまぎれもなくプレゼント用の包みで。
今日、彼が自分以外に贈り物をするだなんて少し許せない気がした。

「ん、じゃあ違うプレゼント貰おっかな」
「え?」


きょとん、とした顔の見の唇に近づいていく。
深く、甘いキス。
ぎゅっと閉じられた瞳も、一瞬こわばった細い体も
全て欲しくなる。全て奪い去ってしまいたくなる。

「ごちそーさん」
「あ、貴方って人は・・・・!」


顔を真っ赤に染めながら怒られてもさほど怖くはない。
だって、これが彼なりの照れ隠しだとわかっているから。

「ほら、一応あげておきます」

そういって、手渡されたのは趣味の良いブレスレット。
見れば観月の腕にあるものとお揃いで。
それだけでも嬉しいのに、包みの中から出てきたものは、
お世辞にも上手いとはいえない、ミサンガ。


「時間がなくて雑なんですが」

消え入りそうな声で言う観月が、

「昨日夜なべして作ったんです・・・」

余りにも可愛くて仕方が無くて

「ベ、別に無理してつけなくてもいいですよ」

思わず抱きしめてしまった。


「あ、赤澤、離れなさい!誰かが来たらどうするんですか?!」

神聖なる教会の前だということを忘れ、無我夢中で抱きしめる。
嬉しくて、嬉しくて。
体中の体温が沸騰するかと思うくらいに。

「まったく・・・」

何を言っても離さない俺に諦めたのか、
観月は腕をそっと廻してこう云った。

「誕生日、おめでとう御座います」


きっとこの瞬間俺は、世界一の幸せな男に違いない。


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「ほら、早く帰らないとお家の方とカレーが待ってますよ」
「ん、もうちょっとだけ」
「・・・ハイハイ」



赤澤の髪の毛を優しくなでながら、
このまま返したくないという思いが高まっていく。
そんなことできる訳がないのに、独り占めしたくてたまらない。
こんなにも愛しい人。
こんなにも僕を思ってくれる人。

「そういえば、お前、寝不足だったのはこれ作ってたからだったのか」

手首にまかれたミサンガを揺らして、瞳の輪郭を優しく指でなぞっては、
ちょっとはれてるぜ、と心配そうに目を細める。
まさか、寝不足がバレていたとは思わなかったのに。
こういう時、彼の鋭さには頭が下がる。

「よく気付きましたね」
「そりゃ、よく見てますから」


お互いに笑いあうこの瞬間が長く長く続くことを祈ってる。

「裕太のメニュー作りに精を出してるのかと思った」

なんてよくいえると思う。
貴方といると、どうしても目が笑ってしまって部員に示しがつかないから、
わざと遠ざけているくらいなのに。
それを知ってか知らずか、後輩とじゃれている貴方にやきもきしているなんて、
きっと、きっと彼には伝わっていないに違いないけど。



視界に入れば追わずに入られない。
手を伸ばして触れずにはいられない。

それは僕も同じ事。貴方を好きすぎて、貴方しか見えなくなってしまう。
きっと、これは盲目の恋だから。

だから、ぎゅっと手を繋いでいて。
また来年も二人で、貴方の誕生日を祝いましょう。

end

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赤澤部長、誕生日おめでとう御座います。
深夜2時から4時までの間に書きなぐった部長誕生日SS。
観月より長いのは本当に勘弁してください。
観月ちゃんも同じくらい、いえそれ以上に愛してますから!
ちょこっとだけですが、部員と観月ちゃんの交流を書いたのですが、
テニス部の部室のイスの上にあるクッションは
皆からの誕生日プレゼントだったらいいなーと思いまして。
ともかく!赤澤部長誕生日おめでとう御座います!!
末永く観月とお幸せに!!

2005/8/2