| ドキドキする男 放課後、暇を持て余したオレはなんとなく、という理由から図書室に来た。毎日、部活部活で忙しいから、オレには馴染みの薄いこの場所はかすかに聞こえる話し声以外は何の音もしない、不思議な空間だった。本が好きなヤツには楽園なんだろうけど、オレにはちょっと窮屈すぎる。それならどうしてここにいるのか、と云われればこう答えるしかない。なんとなく、アイツがいるかもしれないって思ったから、と。 観月は本が好きで、よくこの図書室に来ていると木更津なんかから聞いていた。入学以来、一度も訪れたことのないこの場所は観月の憩いの地らしいと。だからなんとなく入っていって、オレを見つけた観月が信じられないといった表情をしていたのには流石にちょっと凹んだ。オレだってまったく本を読まない訳じゃない。まぁ文字がいっぱいあるから途中で読むのがしんどくなって諦めるときもあるけど。観月は広辞苑みたいな分厚い本を読んでいた。ちらっと覗くと日本語じゃないみたいだった。オレが「凄いな。洋書かよ」と言うと、観月はキッと睨んでから「覗かないで下さい」と云って別の場所に座りなおした。観月の睨んだ顔なんてちっとも怖くないオレは観月の座った前の席に腰を下ろした。向かい合わせ。これだと本を覗くことはできないけど、観月の顔がよく見える。本も読まず、暇だからとただ観月の顔ばかり見ているオレの視線に耐えかねたのか、観月が席を変えた。その度にオレも座りなおす。何度か繰り返したあと、心底迷惑そうに睨まれた。だから怖くないって。 「何がしたいんですか」 「んー別にぃ?」 曖昧に頷く。日も傾きかけて、白っぽい月が見えた。こうやってゆっくり時間は過ぎていく。暇だなぁ、退屈だなぁと思う。もっと刺激のある生活がしてみたいと思った。例えば、胸がときめくような事件が起きるとか。見られることに慣れたのか、観月は手元の本へと視線をうつした。その表情は真剣だ。何が書いてあるかは分からないけれど、観月にとって有益な情報源なんだろうその本がちょっと羨ましくみえた。観月にはとても感謝してる。オレが部活をまとめていけるのも観月のおかげだし。服のセンスは悪いけど悪いヤツじゃないよな。・・・・多分。赤澤は観月が裕太に部室の掃除を(半ば脅して)させていたことを思い出した。・・・・・悪いヤツかも。 観月の肌は白い。そこら辺の女子がはだしで逃げ出すほど透き通ったキレイな色をしている。腕や足は折れるんじゃないかってこっちが心配してしまうほど細い。長い睫に縁取られた瞳とか、赤々した唇とか、世の中の女性が欲しがりそうなものばかり持ってる気がする。こうやって本を読んでるだけで絵になるし、美少年は得だよな、と思う。まぁ、容姿のせいで色々と嫌な思いをしただろうことは想像つくけど。じゃなきゃ、こんな性格にはならないよなー・・・・。 「・・・赤澤、僕の顔に何かついてますか?」 「へ?別に何もないぜ?」 「周りからも見られているみたいなんですけど・・・」 突然観月から声が掛かって、オレは思考を止め、周りを見渡した。確かにオレ達に視線が集まってる気がする。それはきっとテニス部の部長とマネージャーが揃って図書館に来ているからだろう。観月はともかく、オレはここに初めてきたのだから、もしかしたら何かあるのではないかと邪推する輩もいるだろうし。それにオレはさっきから本も読まずに観月の顔みたり、考え事してるもんなー。怪しむだろうな普通は。 「そりゃ、オマエの顔が可愛いからだろ?」 オレは冗談でそういった。観月の顔が可愛いのも事実だし、観月が女子生徒に結構人気があるのも事実だったけど、別に皆が皆、オマエだけを見てる訳じゃないだろって、そういう意味での冗談だった。だけど、 「!!」 あの観月が顔を赤らめて固まってあまつさえ読んでいた本を落とした。なんという衝撃。しいて英語にするならアンビリーバボーってやつだ。する必要は別にないけどな。それくらいオレにも衝撃が走ったということだと思う。だって、あんな顔するとは思わなかった。あんな可愛い顔した観月なんて見たことがなかった。衝撃。衝撃。衝撃。どうしようか、ドキが胸胸・・・じゃない、胸がドキドキした。こんな恋の始まりがあっていいのかと思った。 ------------------------------------------------------ 2004/10/26 結城はじめ(BGMは何故か「ハートを磨くっきゃない(TOK●O)」) |