一体、何処で道を間違えたのか。僕は自分がこんなにも愚かだとは思わなかった。もっと計算高く、したたかに生きるのだとずっと思っていた。だから、テニスの推薦で東京の学校に転入が決まった時は、こんな風になるなんて本当に思っていなかった。

スライドブルー


ふと、月明かりで目が覚めた。今日は雲もなく、月がはっきりとよく見える。隣で寝ているのは、赤澤だ。こうしてみると意外にも整った顔をしているなぁと思う。月の光加減で、褐色の肌が透けるような白に見えた。まるで自分の肌の色のようだ。同じ練習をしているのに、日に焼けない観月の肌はそれこそ月の光のように真っ白で、それを赤澤はとても気に入っているようだった。首筋にちりり、と痛みを感じる。赤い斑点が体のあちこちに見え隠れした。恥ずかしさよりも誇りを感じる。こうまで赤澤に愛されているのだと実感する。しかし、この関係が永遠に続くものだとは、観月には思えなかった。

この恋は僕を弱くする。

きっと、赤澤は自分を手放すだろう。観月との関係も若かりし日の過ちと笑うのだ。傍らには彼にふさわしい女性や子供が居て、幸せそうに微笑むのだろう。観月は想像する。いつかはわからないけれどそうなることは確実だ。彼が不幸になどなるものか。きっと死ぬまで笑って暮らすのだ。そして、自分の未来を思う。きっとずっと、それこそ死ぬまで彼を想っているのだろうと。

僕の永遠は君の一瞬だった。

どうして男に生まれてきたのだろうか。こんなに男らしからぬ容貌で。そこいらの女性よりも女らしいこの体が恨めしい。しかし、女の体ではテニスで上り詰めることは難しいだろう。そして、それでは赤澤とはすれ違うこともなかったはずだ。ほどよく筋肉のついた、それでも細い腕で赤澤の頬にそっと触れる。彼に触れられる位置にいることを確認するかのように。そして、思考は移ろう。もし、観月が女でも赤澤は今と同じように愛してくれただろうかと。女性に変わったからと言って、性格や容貌は大して変わらないだろう。赤澤は自分の何処が好きなのか。まさか、男だったから好きになった訳ではないだろう。それならば、女の体であった方が幸せだったのかもしれない。問題は、出会いだ。山形と東京、どういう接点があるだろうか。テニスでルドルフが有名になれば少しは望みは持てるが、もしそこに自分が居ないのであれば、ルドルフなどよくて都大会、いや、地区予選あたりで危ないかもしれない。自分や、補強組のメンバーがいるからこそ、都大会まで行けたのだから。そのことは紛れもない真実だと確信する。そうしないときっともっと壊れてしまうだろうから。かつて自分のミスで破れた試合がどんなに打ち消そうとしても、これだけは譲れなかった。

僕を射抜いたその眼が、僕に触れたその手が、愛を紡いだその口が、僕に向けられた愛が、僕以外の誰かのものになるのなら。いっそのこと・・・・・・。

考えることをやめて、観月はため息をついた。目の前にいる男はこんなに自分を悩ませていることを一つも知らずに、すやすやと寝息を立てて、眠り込んでいる。だけど、起きている時は誰よりも自分を必要としてくれているから。だから、まだ、笑える。もし、彼が自分を捨てて新しい道を求めるようになったら、彼の傍に居座って、幸せになるはずの未来を不幸に変えてやろうと思う。こんなにも楽しいことはないだろう。こんなにも悲しいことはないだろう。彼を不幸にしてしまう代わりに、自分は幸せになるのだ。

ああ、頭が思うように働かない。きっと月のせいだ。月がキレイな日は何故か感傷的になってしまう。だから、今、思ったことは全て忘れてしまえばいい。朝になったら赤澤を叩き起して、いつもと同じように笑えばいい。きっと明日は晴れるだろう。間違えてしまった道すらも太陽は同じように光照らすのだから。

いつか、来るだろう未来にも、尽きない悩みにも、光が灯ればいいのだけれど。

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2004/10/16