生温い培養液の中で息をする。
もうすぐ目覚めなければならない。
此処はとても暖かくて気持ちがよいから、
出来るものならばずっと、此処で眠って居たかった。

嗚呼、誰かの呼ぶ声がする。
優しくて、力強い声が僕を呼ぶ。

行かなくては。

君が僕を呼んでいるなら。



+++++++僕らが望むもの++++++



「ナンバー01、起動せよ」
そう言われて僕は目覚めた。
ゆっくりと目を開けてみる。
視界に入るのは、所狭しと置かれた機械類と
好奇心に満ち溢れた人々の姿だった。

「ナンバー01、目覚めはどうだい?」
優しく声をかけられる。
この人が僕を造ったのだろう。
では、僕を呼んだのはこの人?
・・・違う。僕を呼んだのは・・・・・・・。



僕は世界初の心をもつ人間型ロボットだ。
嬉しければ笑い、悲しければ泣く。
痛みだって感じるように作られている。
人間に一番近いロボット。

只、違うのは僕が人間よりも下だということ。
人間の命令には絶対服従。
断わりもなく増殖されていく僕ら。
全てにおいて優先されるのは彼らの意思。

(まったくもって不愉快ですね。)

僕は心の中で毒づいてみる。
けれど彼らは判らないだろう。
心をもった人形が考えていることなんて。






+++++++++++++++++++

「ハジメ君、調子はどうかね?」
「お陰様で、すっかり外の世界にも慣れてきました。」
「それは良かった。何かあれば遠慮なく言いたまえ。」

今、話しているのは僕を造った会社の社長だ。
僕はまだ試作段階で、僕を改良した商品が来月発売される。
そしてこれからもどんどんと改良されていって
多くのロボットたちが人間のために働くのだろう。


       自分の心を殺して。


心を持ったロボットは主に看護系の需要が見込まれている。
人間では出来ない力仕事。24時間不眠不休の身体。
なんて便利なんだろう。

そして要らなくなったら捨てられる。
心を凍結させて、痛みなどの神経は取り外して。
粉々に砕けばいい。
何も残さないように。




ダダダダダッッッッッッッ
誰かの走る音が聞こえてくる。
それが誰のものかなんて声を聞かなくても判るようになっていた。

「帰ってきたみたいなので、そろそろ失礼します。」
「ああ、宜しく頼む。」
僕が社長にお辞儀をすると同時に誰かがドアを開けて叫ぶ。

「ハ〜ジ〜メ〜〜〜!!」
声の主は褐色の肌をした少年。
「ハイハイ。そんなに叫ばなくても聞こえてますよ?」
「早く帰ろう。なぁ、昨日のゲームの続きしようぜ!!」
早く早くと腕を引っ張りながら僕を急かすこの少年は、
僕を造りだした会社、赤澤カンパニーの社長の孫で、
僕に『ハジメ』という名前を付けてくれた、
赤澤吉朗、11才。


彼と初めて会ったのは僕が目覚めた次の日。
社長と一緒に研究室にやって来た。
科学者の一人が言う。

「ナンバー01、彼が君のマスターだよ」と。


++++++++++++++++++++++++


僕が造りだされてからもうすぐ一年。
僕は新しい兄弟たちの姿を見た。
真っ白な肌。色素の薄い美しい髪。紅い唇。
まるで芸術品のようだった。


「こんにちわ。」
椅子に座っている一人に声をかけた。
腕にはαの文字が刻まれている。
「こんにちわ。02αです。貴方もオリジナルですか?」
「ええ。01です。貴方たちの兄、ということになりますね。」
製造番号にαがつくのはシリーズの一体目ということだ。
その他のロボットは一般用に売り出されるが、
一体目は研究室で暮らすことになる。
そして改良を加えてはまた新しいロボットが造りだされる。

造りだし、造りだしては捨てられる。
それの繰り返し。


彼が科学者に呼ばれるまでずっと、
研究室の外の話に花が咲いた。
帰り際、彼はぽつりと呟いた。
「僕たちは何時まで必要とされるのでしょうね?」

永遠に生き続ける僕らは一体何処まで行けるのだろうか。
限界を超えようとする彼らは何処までも進んでいるのに。


それは僕たちロボットの抱える存在意義。
彼は恐れているのだ。
自分と同じ顔をしたロボットが粉々に砕かれるのを。
それが何時自分に降りかかってくるのかを。
恐れながら生きていく。
粉々に砕かれるまで。


「大丈夫。僕たちは何時までも必要とされますよ。
僕らを超える者がでてくる筈はありませんから。」

それは、そうであって欲しいという僕のエゴ。
僕らは心があるから成長もする。学ぶことも沢山ある。
只の機械じゃない。
心があるから。
でも、それは同時に重りでもある。


ロボットに心は重すぎるのかもしれない。




++++++++++++++++++++++

「・・・・・ハジメ。」
「どうかしましたか?」

僕が一人、今日あったことを考えていると
吉朗が僕の部屋にやって来た。

「眠れないのですか?それとも怖い夢でも・・・・・」
「なぁ、ハジメは泣かないのか?」

その言葉はあまりにも突然すぎて、僕は何もいえなかった。

「ハジメは心があるから、嬉しいときは笑うだろ?
 なのに俺、ハジメが泣いてんの見たことねぇし。
 泣けるんだろ?泣けよ。泣きたいんなら。」
「・・・・・貴方といると楽しいことが多すぎるんですよ。」

それは本当。
吉朗と過ごした日々は楽しくて、自然と笑みが零れた。
内蔵されたデータなのかもしれないけれど、
彼といる時が一番穏やかで優しかった。

「でも泣きたい時もあるだろ?」
「ありますよ、貴方が国語のテストで9点を取ってきた時とかね。」

でも僕は知ってる。その次のテストで君が100点を取ったこと。 
夜中まで熱心に勉強していた君を。

プレッシャーに押し潰されそうになっても、
自分の力で一歩ずつ先へと進もうとする君を。
                           
「か、関係ないだろ!!」
「僕の教え方が悪いのかと思いましたよ。」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

んふっ。困ってますね。口で僕に勝とうなんて100万年早いんですよ。

「ほら、もう遅い時間ですから、寝坊しても知りませんよ?」
僕はそう云って吉朗をいさめる。
けれど彼はまだ言いたいことがあるようでなかなか帰ろうとしない。

「そうじゃなくて、いいか、よく聞けよ。俺が言いたいのは、
ハジメが嫌だと思ったら無理に笑わなくてもいいし、
言いたいことがあるなら、
直接だと・・・言い辛いだろうから俺に云えってこと。
なぁ、今日何かあったんだろ?」


全て見透かされたような気がした。


「僕は結構判り辛いと思っていたのですが、
バレてましたか。仕様がないですね、僕は。
貴方に余計な心配を・・・・・」
「余計なんかじゃない!!!」

僕は吉朗が怒鳴るのを初めて聞いた気がする。

「ハジメは俺の友達だし、兄弟だし、
時々勉強しろって煩いから嫌だけど、
ハジメが辛そうな時に何も出来ないのは嫌なんだ。
・・・・・頼りないかもしれないけど、
俺はずっとハジメの味方だから。」

胸に込み上げてくるこの熱いものは何だろうか。
瞳の中から温かな水が溢れだす。
嗚呼、これが・・・・・。


「ハ、ハジメっっ???ど、どうしたんだ?泣くほど嫌なのか?」
一人オロオロしている吉朗に言った。
心から思う。

「有難う。これは嬉し涙ってやつですよ。」

生まれてはじめて泣いた理由が嬉しかったからだなんて、
ちょっと格好良すぎかもしれない。


++++++++++++++++++


「自分が要らないなんて思うなよ。
俺は必要だからな、ハジメのこと。」

吉朗を部屋に送った時に言われた言葉。
嬉しかった。
自惚れても構わないだろうか?
自分を必要としてくれる君が居るなら、
僕は何処までも行けるような気がするんだ。
叶うなら君と共に。

何時かバラバラに打ち砕かれてもきっと覚えている。

『起きてよ、ハジメ』

僕を目覚めさせた天使の声を。



         END

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2002/09/16
部活用だったものを改良。
A.Iの影響をモロに受けた作品。